ONEでは、小学生に対し、原則として「辞書で調べる」ということをしないように指示しています。
辞書を引くことは悪いことではありませんし、中学・高校・大学と勉学を進めていく段階では、辞書は学習には不可欠なものです(もっとも「英和辞典」は使っても「国語辞典」はあまり出番はないかもしれませんが)。
しかしながら、小学生が辞書を引いた場合、いろいろと弊害が起きる可能性があります。
たとえば、国語の問題文の中に、「規範」・「アイデンティティ」という言葉が使用されており、その意味がわからなかったとしましょう。そこで、辞書を調べてみます。
これは旺文社の「標準国語辞典」という中高生の学習用の国語辞典の説明ですから、「広辞苑」などの大型の辞書の説明よりは理解しやすいものになっています。さて、この説明を読んで、納得できる小学生がどれだけいるでしょうか。「規範」については、説明の中にある「よりどころ」ということばの意味がわからず、新たな疑問を持つ小学生も少なからずいるでしょう。「アイデンティティ」の説明について言えば、おそらく「何を言っているのかわからない」はずです。問題は全く解決していないのですが、辞書を引くことで満足してしまい、とりあえずそのまま覚えるなどということをするかもしれません。意味もわからないのに覚えるというような形式的な作業は、学習にとって大きなマイナスです。
辞書を引くことは強制をするようなことではないと考えます。強制しなくても、必要なら引くようになります。引いても意味ある形でそこから情報が引き出せなかったり、意味を読んでもピンと来なかったりするから、引かないのです。中高生になると、たいていの生徒は英語の辞書は引くようになります。そこに書かれた情報を意味ある形で利用できるからです。しかしながら、国語の文章に出てきた語句の意味がわからないという場合、抽象度の高い語になると辞書の説明を読んでも意味がわからないので、積極的には引こうとしないというケースが多いと思います。わからないのであれば、もっと別の方法を取ればいいのです。
実際問題、大人が国語辞典を引く場合というのは、言葉の意味を調べるのではなく、文章を書いている際に漢字をど忘れしたという場合がほとんどではないでしょうか。意味を調べるということはあまりないのではないかと思います。
生徒には「意味のわからない言葉については、必ず質問をしなさい」と指示をしています。質問が出ないときは、「〇〇とは、どういう意味?」とこちらから質問をすることもあります。そこで答えられないと、わからない言葉をそのままにしようとしたことについて注意をしています。
言葉の意味の質問に対しては、単に辞書的な説明をするのではなく、実際の用例を示したり、似たような意味合いの言葉と比べたりしながら、言葉のニュアンスを感じ取ってもらうようにしています。たとえば、先ほどの「規範」の場合であれば、実際の「規範」の具体例となるようなことがらをいくつか挙げ、さらには「ルール」・「マナー」などといった生徒たちが知っている関連のある言葉と比較するなどして、言葉の輪郭をつかんでもらうということをします。説明をした後で、今度はそれを生徒に説明させたり、ノートにまとめさせたり、文章を繰り返し読んで文章の中で意味を確認したり、翌週にテストで確認したり、宿題で確認したり……といったことを通じて、時間をかけて言葉の意味を定着させていきます。