小4,5の夏期講習では、ことわざを題材にして学習をしています。「ことわざの学習」と言うと、ことわざを単純な知識と位置づけ、「ことわざの意味を覚えて、覚えたかどうかをテストで確認する」というのが一般的だとは思いますが、今回はことわざを記憶してもらうことを目的に授業を行ってはいません。
ことわざを解釈し、理解するということを通じて、文章を読解する際に必要な頭の動きを身につけてもらうことを目的にしています。
「猿も木から落ちる」ということわざを例にして説明させていただきます。
辞書を調べると「その道に優れた者でも時には失敗することがあるということ。=弘法も筆の誤り・河童の川流れ」というような説明が載っています。これを覚えることは難しいことではありませんが、それで終わってしまうのでは、文章読解にはつながりません。
ことわざを解釈し、そこに込められたメッセージを読み取るためには、以下のようなことが必要です。① ことわざ中に使われている単語についての知識・イメージを持っている。
② ことわざ中の単語の相互関係を通じて、文脈における語意を確定する。
こういったことができなければ、ことわざを解釈・理解することはできません。
順を追って書かせていただきます。
① 「猿」ということばを聞いたときに、どれだけのことをイメージできるでしょうか。「かしこい」「人間に近い」「悪さをする」「木登りがうまい」「お尻が赤い」……などなど。もし、お子様が「猿」を知らなかったり、「猿」についての多くのイメージを持っていなかったりという状態であれば、ことわざの意味を類推することはできません。
② 先ほどの「猿」についての様々なイメージの中からここでの意味を確定するのは、「木から落ちる」という後に続く部分とのつながりです。後に続く文脈があるからこそ「木登りがうまい」生き物という意味での解釈が可能になるのです。ついでに言えば、「猿が」ではなく、「猿も」とあることにも注意を払いたいところです。
さらに付け加えれば、実際に生活の中や文章の中でことわざに出会ったときには、その使われた状況によって、言葉の意味の奥行、言葉に込められるメッセージは異なります。
A 昨日、動物園に行ったら、猿が木から落ちたんだよ。幸い、怪我はしなかったんだけど。
B 料理上手なお母さんがハンバーグを真っ黒に焦がしてしまったんだ。猿も木から落ちるというのはこのことだね。
C いくら君が料理が得意だからと言ったって、猿も木から落ちるということもあるんだからね。
Aは「ことわざ」ではなく、「猿が木から落ちた」という事実を表現しただけです。ことわざではありません。しかし、この話し手は「猿が木から落ちた」ということに驚いているわけですから、猿に対して「木登りがうまい」というイメージを持っているということはわかります。
Bは「ことわざ」です。「お母さんがハンバーグを焦がした」ということが「木登り名人の猿が木から落下するようなものだ」、つまり「名人でも失敗する」という意味で使われています。
Cは、「名人でも失敗する」ということわざの意味を踏まえていますが、話し手の最も伝えたいメッセージは「油断をしてはいけない」ということです。単純なことわざの知識を持っているだけではなく、そのことわざを通じて「言いたいこと」を捉える必要があります。
自分の持っている言葉のイメージを一文の中における周りの言葉との関係の中で確定する。そして一文の意味を前後の文脈の中で確定していく。これは文章読解の際に行わなければいけないことです。こういうことを無意識にできるようになるため、ことわざを使って「読解練習」をしていきます。