今月から論理的な文章を扱っています。実際に前回までに読んでもらった文章の一部を引用してみます。
マンションの高層階で育った子どもには、高所からの転落事故が多いと言う。幼いころから高所で暮らしているために高さに関する身体感覚が麻痺した状態、いわゆる「高所平気症」になり、たとえばビルの四階や五階の屋上から地上を見ても恐怖感がわかず、平気で飛び降りてしまったりするのである。自分の身体の大きさや身体能力をはるかに超えた時間・空間の経験が、人が生きていく上で必要な身体感覚を失わせてしまったのであろう。
文明の進歩のおかげでわれわれ人類は利便性と快適性を手に入れている。しかし、それは本来の人間、生物としての人間の持っていたさまざまな感覚からはかけ離れたレベルのものであり、その結果、人間はもともと持っていた感覚を次々と失っている。先ほど挙げた高層マンションの話は一例に過ぎない。
本日の授業では、この文章に登場した語句について、読み方と意味を問うテストを行いました。
一度文章を読んだのだから、この問題がすらすらとできるのかと言えば、そう簡単にはいきません。
「転落」・「恐怖感」・「能力」あたりは、読めないということはありませんし、意味がわからないということもありません。意外にも「麻痺」という文字はこれまでに見たこともなかった字なので、印象に残ったのでしょう。しっかりと読めていましたし、意味も答えられていました。
後ろの三つについては、読めてはいても、意味を答えることができていないお子様がいらっしゃいました。このような場合、本文をもう一度読んで、どういう意味だったかと確認すると、答えられるケースがあります。要するに文脈から意味を類推して何となく分かったということです。こういう文脈把握力も受験においては必要ではありますが、それだけでは十分というものではありません。今の例で言えば、「文明」・「利便性」・「快適性」などという言葉については、受験生としては文脈とは関係なく、その意味を理解しておくべきです。本文を読んで、何となく概要を把握できたからそれで良しとするのではなく、本文の中に使用されている語句、表現について覚えておくべきもの、深く理解をしておくべきものについて、しっかりと定着させるということが必要です。
「塾のテキストで多くの文章に触れているのに、語彙の不足が解消しない」という悩みを持たれている方も少なくないかもしれませんが、与えられた多くの文章を一読するだけでは、語彙の強化などできません。読書好きのお子様の語彙が多いのは事実ですが、ただ与えられた文章を一読することを繰り返しても、同じようにはいきません。「何となく理解できたからOK」というのは、受験本番であればともかく、学習の過程においてはマイナスになることもある感覚です。
一本の文章から吸収すべきことについては、とことんしゃぶりつくしてもらいます。