今回は速さの問題を素材にして、算数の問題で知らなければいけない「お約束」について説明したいと思います。まず、(問題1)を見てください。
(問題1)
ある電車が時速40㎞でA駅からB駅まで行くのに2時間かかりました。
A駅とB駅は何㎞離れていますか。
(問題1)の答えは、40×2=80㎞となります。ここでは電車の長さが何mであるのか、電車の長さについては考えていません。多くの速さの問題ではこの問題のように「移動するもの」の長さ(大きさ)を考えないことを前提にしています。
速さの学習が進んでいくと、次の(問題2)のような通過算とよばれる問題も扱うことになります。
(問題2)長さ120mの電車が分速250mで、鉄橋を通過するのに6分かかりました。
鉄橋の長さは何mですか。
(問題2)では(問題1)と同じように電車の長さを考えずに、250×6=1500mとすると、間違いとされてしまいます。ここでは電車の長さを考えて、1500-120=1380mとしなければいけません。
(問題1)では電車の長さを考えず、(問題2)では電車の長さを考える。真面目にとりくんでいればこの2つの違いについて疑問が生じることでしょう。
多くの問題を解いた経験があれば、「(問題2)では問題文に電車の長さが書かれているから、これを使わなければいけないのだろう」と感じられるのかもしれません。しかし、経験のない初学者がこのような感覚を持てるでしょうか? 教える側がなんの配慮もなく「(問題2)では電車の長さを考えます」などと教えてしまうと、「(問題1)では電車の長さは考えなくてよいのだろうか?」と混乱が生じてしまいます。
速さの問題文に登場するものについて長さを考慮するかしないかは、算数における「お約束」にすぎません。この「お約束」を知らなければ、問題文を何回読んで考えても判断することはできないのです。これを曖昧な形で生徒に提示してしまっては、迷いが生じてしまいます。教える側は「速さの問題では、長さが書かれているものと長さが問われているものについては長さを考える」と生徒に対して明確に示す必要があります。
このような「お約束」の存在が生徒の混乱の原因にならないよう、注意深く指導していきます。